視床下核刺激術

パーキンソン病の手術は50年ほど前からさまざまな手術法が開発されておりますが、1995年フランスでパーキンソン病に対して視床下核電気刺激術の有効性が始めて報告されて以来、日本を始め世界各国でこの治療が現時点においては最も有効な手術とされています。

パーキンソン病では脳の中の視床下核という小さな核が興奮しその結果さまざまな症状をひきおこすと考えられておりこれを電気刺激により抑えてゆこうとする考え方です。

脳深部に細い電気刺激用のリード線を設置し、ペースメーカーのような刺激装置を体内に植え込みます。術後電圧の調整を行いますが術翌日から歩行可能です。

手術の手順

〈1〉局所麻酔下に頭部を固定する金属枠(レクセルフレーム)を取り付け、MRI画像で電極を入れる位置を特定

〈2〉頭部の表面に局所麻酔をし、頭蓋(ずがい)骨に小さな穴を開け、深部脳波モニタリング、エックス線で確認しながら電極を植え込む

〈3〉深部脳波や、患者自身が手指を動かすことで、動作の改善を確認

〈4〉後日(通常3日後)、全身麻酔下で電気刺激を送るパルス(電気信号)発生装置を胸部皮下に埋め込む。

パルス発生装置は刺激の電圧の条件にもよりますがおおよそ5年前後で交換となりますが電池交換はきわめて簡単な手術で十分です。

通常一回目の手術を金曜日午後から行い、2回目の手術は翌週の月曜日におこないます。 入院期間は通常術後2週間です。

定位脳手術(視床下核刺激術)の危険性について

1.麻酔・薬剤などによるショックや輸血に伴う感染の危険性

この手術は原則的に1回目の手術は局所麻酔下、つまり意識や手足の運動を残したまま行う手術であり、あまり多くの麻酔薬や麻酔に必要な薬を使う必要がありません。しかし、局所麻酔薬や抗生物質などの基本的薬剤は最低限使用しなければなりません。 また手術時、皮膚切開などからの出血をできるだけ少なくすることを心がけており、またこの手術自体が出血はほとんどないものであり、輸血を必要とすることはありません。

2.手術手技による危険性

通常、視床下核の刺激によってなんらかの神経学的後遺症状を生じることはほとんどないといわれています。これは視床下核が、最終的なヒトの動きに関するアクセルとブレーキのバランスを調整するものの、それ自体が、運動や感覚などを伝える通路の主なものではないこと、そしてまた、ヒトの知的機能に影響を与える器官ではないと考えられることなどの理由によると思われます。 術後の電気刺激にて性格変化などがあらわれることがありますが1ヶ月ほどで落ち着いてくるのが基本です。

3.感染

生体は皮膚、粘膜などに被われ外からの微生物の侵入を防いでいます。われわれは無菌手術を心がけていますが、手術の際微生物の侵入を100%ゼロにすることは現在の医学水準からは困難です。従って、術中、術後にこうした微生物を殺す薬剤すなわち抗生物質を投与しています。多くの患者さんではこうした治療により術後感染の問題は生じませんが、患者さんの抵抗力が弱かったり、抗生剤の効き目が悪かったりすると術後、細菌性髄膜炎、、皮下膿瘍などの感染性合併症を生じる可能性があります。その場合電極を抜いてしまわなければならないことも考えられますが基本的には大きな心配はなくわれわれの施設で重大な合併症をおこしたことはありません。

4.手術中、手術後の頭蓋内出血、脳梗塞、脳損傷とそれに起因する神経症状

われわれが計画している手術に関して、これら合併症が生じる可能性は決して高くはありませんが(1%程度との報告ありますが臨床的に問題となるような大出血はもっとまれなものと考えます)、一度生じた場合にはもっとも重篤な合併症と考えられます。術中はこれらの合併症を生じる原因となる、血管や脳の損傷をおこなさないよう最大限の注意を払っていますが、患者さんの血管や神経走行などの解剖学的な差異や脳自体の強さの違いなどから、これらの予期せぬ合併症を生じることがまれにあります。そのため術後の患者さんの状態を注意深く観察するとともに各種のモニターによるチェック、CT等のレントゲン検査を適宜行い、患者さんの術後状態の把握に努めています。