脳深部電気刺激術(DBS)のメリット・デメリット(オリーブのつぶやきへの寄稿)


(オリーブのつぶやき vol 2 より)

DBSのメリット・デメリットについて原稿依頼されましたが、考え方によってはこの表題は難しい課題です。医師は患者の診察にあたって、どうすれば患者の状態をよくすることができるか、ただそれだけを考えているのだと思います。脳の手術ですから危険性(リスク)はあります。しかし必要以上にリスクを強調してせっかくのチャンスをなくしてしまう医療サイドの考え方は間違いであると思います。逆に十分手術適応(この患者に手術が効果的なのか)を考えないで手術をすすめることは許されることではありません。

DBSは現在パーキンソン病の治療法として世界的にも十分な有効性が認められています。手術は外科医にとってもストレスあることです。できるならば手術せずすむ方法があれば誰だってそれを選ぶでしょう。しかし現在、簡潔に言えば病気の進行に伴いドーパを際限なく増量してゆくしかほかに方法がないのです。すると薬の効果時間が短くなります(ウェアリングオフ)仕方なく服用回数を3階から4回、5回と増やさなければなりません。するとドーパ増量に伴う不随意運動(ジスキネジア)が起こってきます。また幻覚などの精神症状も起こりやすくなると思われます。手術には危険性(リスク)があります。しかし薬にもリスクがあるのです。患者の年齢・症状・日常の生活度やさらには人生観まで含めて手術適応は決められているのです。

さて本題のDBSのメリット・デメリットの話に戻します。

DBSのメリットは当然のことながらパーキンソンの症状を軽くすることです。そして現在の薬の量を少なくすることです。具体的な話としてウェアリングオフのあった患者が手術後服用回数を減らしても不快な症状の日内変動がなくなるのは大きな効果だと考えます。さらに投薬量を減らしたためジスキネジアがなくなることもまれなことではありません。もちろんパーキンソン病は進行性の変性疾患であるため、現在ではその進行を止めることができません。しかし手術によって症状をまだ不便の少なかった過去にタイムスリップさせることができると考えています。そして今後必要になる薬の増量にも余裕ができてくると考えられるでしょう。

この手術は人生を楽しく取り戻すための手術なのです。

デメリットとして考えられるのは、漠然とした「頭の手術」に対しての不安と恐怖でしょうか。それと電池の寿命が5年ぐらいのものですので5年ほどすれば電池交換の手術(これは局所麻酔で30分ほどで終わる簡単な手術)の必要があることぐらいです。

これらのことより重要なことは手術に伴う危険性(リスク)であり、このことはよく理解しておかなければなりません。

DBSなどの機能的脳神経外科の手術はわれわれが普段行っている脳腫瘍やくも膜下出血などと違い命を救うための手術でなく人生を豊かに生き生きとおくれるために行う手術です。そのため手術に伴う危険性は限りなく低いものでなければなりません。

想定される危険性は出血と感染です。出血のリスクは1~3%と報告されていますがわれわれの経験では1%未満であり後遺症を残すような出血の経験はありません。

感染は2~3%の頻度はあります。場合によっては挿入した刺激装置を一時取り出してしまわなければいけないこともあります。もちろんその場合でも後遺症を残すような重大な感染に移行した例はありません。

われわれは200例を超す手術経験がありますが機能的脳神経外科の性格上、一例でも術後悪化する例があってはいけないと思っています。疑問点や不安を感じることに関しては術者と十分話し合うことが何より必要です。

どんな手術でも同じですが特にパーキンソン病に対するDBSの手術は術後も長い付き合いになりますので医師と患者の間の信頼関係が最も必要で重要なことと思っております。

手術するより何とか薬で、と思うのは当たり前のことです。しかし薬にもリスクがあるのです。患者一人一人の年齢、重症度、薬の反応や全身状態などを考え手術適応を決定するものでありパーキンソン病の患者すべてに手術が必要であることではありません。これから先の人生をどう生きていきたいかも話し合い治療法の中でDBSも一つの選択肢になるものであると考えてください。

紙面では十分意を尽くして伝えることができませんが、DBSを考えている場合にはぜひご相談ください。

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